Atelier/Poétique

フランス現代詩研究会

フランス現代詩研究会

メロ・デュ・ディーを読む

【ワークショップ(読書会)】

報告

ベルギーの詩人メロ・デュ・ディー(Mélot du Dy, 1891–1956)を取り上げた、フランス現代詩読書会(第 21 回)が行われました。発表担当者は森田俊吾です。

メロ・デュ・ディーは、本名をロベール・メロ(Robert Mélot)といい、1922 年に重要な文学批評誌『Le Disque vert(青い円盤)』をフランツ・エレンスらと共に創刊するなど、第一次世界大戦後のベルギー現代文学において重要な役割を果たした詩人です。彼の作風は、古典的で端正な美しさを湛えつつも、どこか捉えどころのない不安やアイロニーが交錯する独特の魅力を持っています。

今回の読書会では、1929 年に刊行された詩集『愛(Amours)』より、一篇の軽妙でいて不穏な作品「シャンソン(Chanson)」を精読しました。

本作品は、一見すると伝統的な民謡風の「歌(シャンソン)」を模しており、「七音節(heptasyllabe)」で書かれています。さらに、詩節ごとに異なる人称(Je, Tu, Il, Nous, Vous, Ils)が割り当てられ、様々な人々に向けられた多声的な空間が印象的でした。

(報告書:森田俊吾)


課題詩・試訳

Chanson (1929, Amours)

シャンソン

原文 試訳
I
J’allais par les routes grasses,
Marcheur à moi seul pareil.
Quatre cents mouches d’orage
Me prenaient pour le soleil.

私は滑りやすい道を通っていた、
歩行者は他になくただ私一人だけ。
四百匹の嵐のハエが
私を太陽だと思い込んでいた。
II
Tu allais ma douce reine
Au miel par la voie des airs,
Blonde à toi seule pareille
Un peu plus que le désert.

甘く愛しい王妃たるきみは
蜜に向かって風を通り抜け進んでいた、
金色の髪は他になく君ただ一人
砂漠よりも少しだけ上回っている。
III
Il allait c’était un rêve
Un poète un artilleur
Triste voluptueux raide
Chaste, et pareil à plusieurs.

彼は歩いていた あれは夢だった
詩人だった 砲手だった
憂いを帯び 享楽的で 横暴
けれど純粋、他の人たちもそうだった。
IV
Nous allions comme le monde
À Dieu par quatre chemins
Combien d’hommes ? Quelques monstres
Qui se crachaient dans les mains.

世界がそうであるように私たちは
四方八方から神の方へ向かっていた
どれだけの男たちが? 怪物が何匹か
手のひらに唾していた。
V
Vous alliez, vous alliez vaincre
La paresse de mourir
Dans un endroit de province
Où n’atteint pas le zéphir.

君たちは、君たちは
死ぬという怠惰を
克服しようとしていた
西風(そよかぜ)の届かない地方で。
VI
Ils allaient par les prairies
(C’étaient des enfants velus)
Et les femmes pouvaient rire
Qui pourtant ne riaient plus.

彼らは平原を進んでいた
(それは毛で覆われた子どもたちだった)
笑うこともできたはずの女性たちは
けれどもう笑ってはいなかった。

読解と議論のポイント

1. 韻律と形式面の特徴

  • 七音節(Heptasyllabe)の使用
    全編が奇数音節である 7 音節で構成されている。民謡や童謡のような軽快さ(シャンソンらしさ)を生む一方で、どこか割り切れない浮遊するような印象を与える。
  • 不安定な脚韻
    各詩節の脚韻は「女性韻(F)- 男性韻(M)- 女性韻(F)- 男性韻(M)」の交互韻(FMFM)だが、女性韻の部分が完全に一致していない箇所があり(MMFM FFFM MF)、意図的な不安定さを際立たせている。

2. 人称の変遷と「そぞろ歩き」の空間

  • 主語の規則的なスライド(Je → Tu → Il → Nous → Vous → Ils)
    第 1 詩節から第 6 詩節にかけて、主語がフランス語の人称代名詞の順序通りに規則的に変化する。それぞれの主体がそれぞれの場所を歩んでいる様子を描き出している。
  • par の多用
    par les routespar la voie des airspar quatre cheminspar les prairies と頻出する。真っ直ぐな進行というよりは「そぞろ歩く」「周辺を彷徨う」といった、限定されない放浪のイメージ(原文メモより)。

3. 「戦争・死・野蛮さ」の予感とアイロニー

  • 「詩人にして砲手(poète artilleur)」のイメージ
    第 3 詩節。「砲手(artilleur)」という軍事的な単語が、第一次世界大戦期の暗い影を引き込んでいる。
  • 死と野蛮さのモチーフ
    • 第 4 詩節:手のひらに唾を吐きかける怪物たち(Quelques monstres / Qui se crachaient dans les mains)
    • 第 5 詩節:死ぬという怠惰(La paresse de mourir)、西風すら届かない地方の閉塞感
    • 第 6 詩節: 「毛深い子どもたち(enfants velus)」という原始的なイメージと、「もう笑うことのない女性たち」という喪失の結び
  • タイトルの『愛(Amours)』が示すように、愛・夢・甘美さとこれらの不穏な影が不可分に結びついている。単なる戦争詩には留まらないアイロニーが特徴的。

4. 翻訳上の難所

  • l. 2 / l. 7: pareil の解釈
    Marcheur à moi seul pareil(私だけに似ている歩行者)、Blonde à toi seule pareille(君だけに似ているブロンドの髪)。他者との類似を拒絶する自己言及的な表現。
  • l. 13-14: comme le monde / À Dieu par quatre chemins
    慣用表現 aller par quatre chemins(遠回しに言う、躊躇する)を逆手に取った言葉遊びとも読める。
  • l. 16: se crachaient dans les mains
    重労働や闘いの前に気合を入れるしぐさ。怪物たちの野蛮な生命力を象徴する。
    :

関連文献・リンク

オンライン資料

文献情報

  • Émile Potelle, Le poète Mélot du Dy et l’Ardenne, Cahiers de l’Ourthe et du Haut-Pays d’Ardenne, 1988, p. 61-71.

Citation :
森田俊吾「メロ・デュ・ディーを読む」、『フランス現代詩読書会』、フランス現代詩研究会、第65号、2023-12-15、URL:https://poetique.github.io/2023-12-15-dy/