【ワークショップ(読書会)】
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発表者:森田俊吾
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対象詩:
- « Le poids vivant de la parole »(『ことばの生きた重み』1983 年)
- « Mentir la vie »(『偽る人生』)
報告
スイス生まれでフランスにて活躍した詩人・翻訳家アルメル・ゲルヌ(Armel Guerne, 1911–1980)を取り上げた、フランス現代詩読書会が行われました。発表担当者は森田俊吾です。
ゲルヌは、詩人としての旺盛な創作活動のみならず、極めて高名なドイツ・英語・日本語文学の翻訳家としても知られています。ノヴァーリス、ヘルダーリン、リルケ、メルヴィル、さらには川端康成の『雪国』などをフランス語へ翻訳し、その卓越した翻訳観は現代でも高く評価されています。また、大戦中はイギリスの特殊作戦執行部(SOE)のレジスタンス活動に従事し、ゲシュタポに逮捕されながらも劇的な脱走を遂げるなど、その波乱に満ちた生涯も作品に深い影を落としています。
今回の読書会では、彼の残した詩作の中から、本質的な言語論・詩論を提示する二篇の作品――« Le poids vivant de la parole » および « Mentir la vie » を精読しました。
前半の « Le poids vivant de la parole » では、アフォリズム(格言)的な前半部分から一転し、言葉と対置される「沈黙(silence)」が「唯一無二の鍵(unique clef)」とされる後半への展開が議論の的となりました。書くこと(écrire)と黙ること(se taire)の対立、そしてイマージュや象徴を「食べ尽くし」「打ち破る」というラジカルな言語的拒絶を経てなお残る、「言葉の生きた重み」を全身で耐え忍ぶ(subir)ことの意義について、深く思索を巡らせました。
後半の « Mentir la vie » では、12 音節のアレクサンドランを基調とした古典的な美しさを有しながらも、言葉のパロディ(levain[酵母]と le vent[夜の風]のカランブールなど)や、食物に関連する物質的イメージ(pâte[練り粉]、neige[雪]、aérer[空気を吹き込む])が奇妙に交錯する不条理な世界観を分析しました。出生の瞬間の記憶を持たない人間の根源的な「始まりからの引き裂かれ」という、実存的な悲劇性と冷ややかな美しさが共存するゲルヌ特有の抒情について、活発な意見が交わされました。
(報告書:森田俊吾)
参考文献:辻部大介「アルメル・ゲルヌの翻訳観 : Pays de neige の鑑賞を通して」 CiNii Research 論文詳細リンク