Atelier/Poétique

フランス現代詩研究会

フランス現代詩研究会

ハワッドを読む

【ワークショップ(読書会)】

報告

今回の読書会では、アフリカのトゥアレグ族の詩人ハワッド(Hawad)を読みました。発表担当者は、笠井かおりさんです。ハワッドは 1950 年、ニジェールのアイル山地に生まれ、サハラ砂漠を遊牧するトゥアレグ族の環境で育ちました。彼は、表紙の画像にあるように、アルファベットではなく、独自のティフィナグ文字を用いて詩やカリグラフィーを制作しています。本読書会では、人類学者である妻のエレーヌ・クロード・ハワッドによるフランス語訳を介して作品が紹介されました。遊牧民としての教育やスーフィズムの教えを受けた経験が、物事の流動性や循環といった世界観として作品の中に色濃く表れています。また、近代化や国境管理によって離散を余儀なくされた民族の危機感や、過酷な砂漠での生の営みが、怒りや渇きの痕跡として作品に深く刻み込まれていることが示されました。

前半では、詩集『乾きのキャラバン』の冒頭の献辞と、それに続く詩「J’erre(彷徨)」を読みました。枯れ果てた泉の前で嵐の中を進むキャラバンの過酷な足取りが、生きることや言葉を発する行為そのもののメタファーとして描かれています。議論の中で、狂気の中で裸になりながらも「優雅に」(élégant)顔をゆがめるという表現の対比的な美しさや、自らの食料を赤ん坊に譲り死を恐れない態度の背後にある独特の死生観が浮かび上がりました。後半では、同詩集に収められた「Silhouette infinie(果てしない影)」を扱いました。ボロ布をかぶり崖を登る「痩せた背の高いばあさん」が明確な姿として据えられていましたが、読み進めるうちに実体的な要素が削ぎ落とされ、そのシルエットはより抽象的なものへと変わっているようです。

参加者からは、老婆の影が地中深くに根を張り天空に枝を伸ばす「木」のイメージへと変容する宇宙的なスケールと、ハイエナの顔に浮かぶ飢えた微笑みといった生々しい死の気配とが一篇の詩の中で共存している点に関心が集まりました。砂漠の峻厳な自然、失われゆく遊牧文化の中で生きる者の葛藤――そして、その中で自らの情念を文字のフォルムに託して噴き上げようとする私的な探求の軌跡こそが、詩集の題である「乾きのキャラバン」そのものに重なっている、という見方が議論されました。

(報告者:森田俊吾)


Citation :
笠井かおり「ハワッドを読む」、『フランス現代詩読書会』、フランス現代詩研究会、第70号、2026-02-01、URL:https://poetique.github.io/2026-02-01-hawad/