Jean Tardieu (1903 - 1995)
Comme ceci comme cela (1979) から « Diurne », « Nocturne » の 2 篇と、Les dieux étouffés (1946) から « Oradour » の 1 篇を読みました。
経歴
1903 年 11 月 1 日、ローヌ・アルプ地方アン県サン=ジェルマン・ド・ジュで、画家の父とハープ奏者の母との間に生まれる。パリのコンドルセ高校を経て、パリ大学で文学と法律を学ぶ。高校の同級生には、アルベール・マリ・シュミット 1 やランザ・デル・ヴァスト 2 がいた。1923 年に、友人のジャック・ウルゴン 3 の紹介で、ポール・デジャルダンの主催するポンティニー旬日懇話会(現在のスリジー国際会議の前身)に参加するようになる。この懇話会で多くの作家(ヴァレリー、リヴィエール、マルロー、モーロワ、クルティウスなど)と交流する。とりわけアンドレ・ジッドに一目置かれ、1927 年に『新フランス評論』誌で最初の作品を発表することになる。また、ベルナール・グレテュイゼン 4 とも親しくなり、カントやヘーゲル、ニーチェ、ゲーテ、ヘルダーリンなどを読むようになる。1931 年にはヘルダーリンの『多島海』の翻訳も行った。この翻訳は、原文の 6 歩格(ヘクサメトロス)をフランス語の長音アクセントではなく、強さアクセントで再現しており、ブランショに「見事な翻訳」と評価された。
1932 年にマリー=ロール・ブロと結婚。この頃、ポンジュとも知り合い、親交を深める。1933 年、小詩集『隠れた河』(Le fleuve caché)を発表し、シュペルヴィエルから「我々から逃れ去るもののすべてを描けている」と評される。1939 年に『アクセント』(Accents)、1943 年に『見えない目撃者』(Le témoin invinsible)を発表。この時期からドイツ占領下時代を迎えるが、タルデューは、ダニエル・トレヴー(Daniel Trévoux)、ダニエル・テレザン(Daniel Thérézin)の偽名で作品を地下出版していた。これらの作品の一部は、後にエリュアールが編纂した『詩人たちの栄誉』(1943 年)や、雑誌『ヨーロッパ』(1944 年)などで取り上げられている。この時期に、カミュやギュヴィック、フォラン、アラゴンらとも出会う。「オラドゥール」も地下出版時代の『レ・レットル・フランセーズ』で発表されている(1944 年)。 第二次世界大戦後は、ラジオ局に務め、ピエール・シェフェールの「実験スタジオ」(Studio d’essai)で、多くのラジオドラマや音楽番組を手がける。この頃になると、クノーの実験文学やイオネスコ、ベケットの不条理演劇の影響も加わってくる。1951 年の『ムッシュー・ムッシュー』(Monsieur Monsieur)は、不条理とユーモアに満ちた詩集で、ブルトンにも賞賛された。劇作品と詩作品を必ずしも別の仕事と割り切ることはせず、『人間なき声』(Une voix sans personne, 1954)や『日の闇』(L’obscurité du jour, 1974)などでは、戯曲・詩・エセー・対話といった複数の形式を一つの書き物として発表するスタイルをとっている。画家との交流も盛んで、ピカソ、エルンスト、ハルトゥング、アルシンスキーらと協力して多くの詩画集を発表した。1995 年 1 月 27 日、クレテイユにて没。
タルデューの詩法
タルデューの詩に多く見られる言語遊戯やユーモア、形式への挑戦は、必ずしも楽観的なものではなく、自己の実存的不安や恐怖といった感情と切り離すことができない。ジャン・オニミュスによれば、こうした作風はタルデューが青年期に、鏡に映る自分が別人に見えるという「危機」を経験し(解離性障害に近い?)、重度の抑鬱状態に陥ったこととも深く関係しているという 5。事実、タルデューの作品には「分身」や「影」、「二重」といった主題が多く見受けられる。
また、タルデューの詩の多くは、単純かつ平易な語彙で構成されており、ジャック・レダはこれを「死の絶対的な非現実性」6 を取り除くためだと指摘している。ただし、タルデューにとって「論理的な結びつきを持たない語を結びつけたり、滑稽な言葉の繋がりの響きを聞いたりすること」は、何よりもまず「喜ばしい」ものであったことを忘れてはならない。実際、タルデューは若い頃から、「言葉の『中身』と呼ばれるものよりもむしろ、言葉の具体的な身体(音色、判読可能な記号)と遊んで」いたと回想している(強調引用者)。
こうした実践は「ありきたりな語彙を、夢幻状態の力でもって、あらゆる意味作用が失われる地点へと向かわせる」ものであった 7 が、彼の詩に意味がないわけではない。この詩人によれば、言葉は、ある「ささやき」を作り出すが、それは「謎めいて、不安に満ちており、例えその国の言語を知らずとも、声のトーンによって感情のレベルで訴えかけてくるものがある」。彼はそれを「意味の此岸」(En deça du Sens)と呼んだ 8。しかし、別のところで「言葉には用心しないといけない。言葉は美しすぎて、光り輝いていて、そのリズムは、あるささやきを一つの思想と勘違いさせて、あなた方を魅了する。気性の荒い駿馬が暴走しないためにも絶えず馬銜を引っ張らないといけない。」とも言っており、言葉の物質的な側面のみを美的に感受することへ警鐘を鳴らす 9。
こうした誘惑的な「意味の此岸」に対置されるのが、「意味の彼岸」(Au delà du Sens)である。それは、「ぼんやりとして、不確かで、あやふやにしか見えない」、「言語の無限の可能性である」、« ineffable » (筆舌に尽くしがたい=滑稽で何とも言えない)なものである。だが、この無限の世界に身を置くことは、ほとんど理解不可能な超越を受け入れることになる。そのため、タルデューの実践は、この此岸と彼岸の二つの意味の間で、言わんとすることと言われたことの合致を目指すものになる。そこで現れる「意味」とは、通常の意味で用いられる意味作用でも、意味内容でもない。あるいは、意味を完全に放棄し、無意味を志向する「ナンセンス」でもない。それは、通常の意味に抗する形で「意味」を捉えんとする「アンチセンス」(Anti-sens)と呼ばれるものになる 10。
翻訳
参考文献
-
Jean Onimus, Jean Tardieu : un rire inquiet, Champ Vallon, 1985.
-
Jacques Réda, « L’autre côté », La Sape nº 32, 1993.
-
Robert Sabatier, Histoire de la poésie française du
XX siècle, t. III, Albin Michel, 1988. -
Jean Tardieu, Œuvres, Gallimard, 2003.
主要著作
-
Le fleuve caché, La Pléiade, 1933.
-
Accents, Gallimard, 1939.
-
Le témoin invisible, Gallimard, 1943.
-
Figures, Gallimard, 1944.
-
Les dieux étouffés, Seghers, 1946.
-
Monsieur Monsieur, Gallimard, 1951.
-
Un mot pour un atre, Gallimard, 1951.
-
La première personne du singulier, Gallimard, 1952.
-
Une voix sans personne, Gallimard, 1954.
-
Théâtre de chambre, Gallimard, 1955.
-
Poèmes à jouer, Gallimard, 1960.
-
Histoires obscures, Gallimard, 1961.
-
Pages d’écriture, Gallimard, 1967.
-
La part de l’ombre, Gallimard, 1972.
-
Le professeur frœppel, Gallimard, 1978.
-
Comme ceci comme cela, Gallimard, 1979.
-
La cité sans sommeil, Gallimard, 1984.
-
Le miroir ébloui, Gallimard, 1993.
- 1. 文学者(1901-1966)。ウリポ創始時メンバーの一人。訳書に『象徴主義―マラルメからシュールレアリスムまで』(白水社) ↩
- 2. 哲学者・詩人(1901-1981)。ガンジーの弟子で訳書に『反暴力の手法』(新泉社) ↩
- 3. ラテン文学者(1903-1995)。デジャルダンの娘と結婚し、婿になる。娘のエディット・ウルゴンはスリジー国際会議の後継者。 ↩
- 4. ドイツ系フランス人哲学者(1880-1946)ガリマール出版のドイツ文学書籍の顧問としてフランスにドイツ文学(カフカやヘルダーリンなど)を紹介。訳書に『ブルジョア精神の起源(法政大学出版)他。 ↩
- 5.Jean Onimus, Jean Tardieu : un rire inquiet, Champ Vallon, 1985, p. 8. ↩
- 6.Jacques Réda, « L'autre côté », La Sape nº 32, 1993, p. 22. ↩
- 7.Jean Tardieu, Œuvres, Gallimard, 2003, p. 1006. [abrégé ci-dessous en TO] ↩
- 8.TO, p. 983. ↩
- 9.TO, p. 944. ↩
- 10.TO, p. 983. ↩