Atelier/Poétique

フランス現代詩研究会

フランス現代詩研究会

ルネ・シャールを読む

René Char (1907 - 1988)

  • 日時:2014 年 10 月 2 日
  • 場所:東京大学駒場キャンパス 18 号館 2F

略歴

1907 年 6 月 14 日、南仏プロヴァンス地方の町リル = シュル = ラ・ソルグ(L’Isle-sur-la-Sorgue)に生まれる。詩作時期は、西永良成の区分に従えば、青春時代からシュルレアリスム期の 1928 年から 1938 年にかけてを前期、レジスタンス参加からフランス解放後の時代、すなわち 1939 年から 1960 年代前半を中期、そして 1960 年代後半から晩年までのほぼ 20 年間を後期として捉えられる [1]
戦争までの彼の詩はすべてシュルレアリスト的で戦闘的であったと言われている。レジスタンス活動期は発表こそしないものの詩を書くことはやめなかった。1946 年以降、次々と詩集を出すにつれて、彼の存在感は広く知れ渡り、ボワデッフルの言葉を借りれば、彼は「饒舌な毛虫は謎めいた蝶 [2]」となった。

シャールは、ブルトンやエリュアール、ブランショ、バタイユ、カミュ、ブーレーズ、ピカソ、そしてハイデガー…… といった多くの著名人たちから敬愛されてきたが、詩の「難解さ」、「晦渋さ」ゆえに神秘性が増す一方で、全体像の把握が非常に困難であった。それゆえに、1983 年のプレイヤッド版全集の刊行および 1990 年のポール・ヴェーヌによる研究書『詩におけるルネ・シャール』はシャール理解のために欠かすことができないだろう。日本では西永良成の『激情と神秘』(岩波書店、2006 年)、吉本素子『ルネ・シャール全詩集』(2002 年)などが代表的な功績としてある。それらの記述を参照すると、シャールの詩は「難解」ではあるが、シャール自身は理解を欲していたことが書かれている。

ところが、ルネはどうしても理解されたがっていた。ある日、てっきり賛意を得られるものとばかり信じて私は彼に言った、「詩には、その存在以外にメッセージなどないんですね」。それにたいする反論はきっぱりしたものだった。「ああ、そうじゃないさ! 言葉というやつは集めると必ず意味をもつ。これは自明なことで、どうしようもない。自動書記なんて私は一度も信じなかったな。[……]きみが話すやいなや、きみはなにかを意味する、とね。これはあの果てしないしゃっくり理論のモーリス・ブランショじゃないんだ……」[3]

シャールの詩における神秘的 hermétique な側面について、西永良成はドイツ・ロマン派から続く「ポエジーの宗教」と呼ばれる意識がシャールにもあり、それ自体聖なるものとしての詩作品となっていると指摘する。モーリス・ブランショが「最初の言葉の未分化状態」と言い、ジャン=ピエール・リシャールが「祈念」と名付けたような届きえない神秘性、事物に確固たる地所を与えないシャールの身振りは、決して実現されることのない祈願文や、オクシモロンといった言語表現に着目すること

シャールの書いた詩の意味(意図)は必ずあり、それは汲み取ることができるものだという。このことを西永はプルーストの一節「すぐれた文学作品はまるで外国語で書かれている」という一節を引用しながら、まるで外国語を理解するようにシャールの詩を読むことを提案した。しかし当然のことながら、単語テストのような一問一答だけが外国語の理解、詩の理解では当然ない。このプルーストの言葉は、以下のように続いていた。「すぐれた文学作品の場合は、読み手の側のどんな誤読も、すべて美しいという風になってしまう」。

主要著作一覧

初期:青春時代〜シュルレアリスム脱退(1927-1938)

  • Arsenal (1927-1929)— 武器庫
  • Artine (1930)— アルティーヌ
  • L’action de la justice est éteinte (1931)— 正義の行為は消え果てている
  • Poèmes militants (1932)— 戦闘の詩
  • Abondance Viendra (1933)— 豊穣が訪れるだろう
  • Moulin premier (1935-1936)— ムーラン・プルミエ
  • Placard pour un chemin des écoliers (1936-1937)— 回り道のためのびら
  • Dehors la nuit est gouvernée (1937-1938)— 外で夜は支配されている

中期:激情と神秘〜群島をなす言葉(1938-1960)

  • Seuls demeurent (1938-1944)— 孤立して留まって
  • Feuillets d’Hypnos (1943-1944)— イプノスの綴り
  • Le poème pulvérisé (1945-1947)— 粉砕される詩
  • La fontaine narrative (1947)— 物語る泉
  • Les matinaux (1947-1949)— 早起きの人たち
  • En trente-trois morceaux (1956)—33 の断章に
  • La parole en archipel (1952-1960)— 群島をなす言葉

後期:失われた裸〜疑われる女への讃辞(1964-1988)

  • Le nu perdu (1964-1970)— 失われた裸
  • La nuit talismanique qui brillait dans son cercle (1972)— その輪の中で輝いていた、魔力を持つ夜
  • À faulx contente (1972)— 満足した鎌に
  • Aromates chasseurs (1972-1975)— 狩猟する香料
  • Chants de La Ballandrane (1975-1977)— ラ・バランドラーヌの歌
  • Fenêtres dormantes et porte sur le toit (1973-1979)— 眠る窓たちと屋根に面した扉
  • Loin de nos cendres (1926-1982)— 私たちの遺灰から遠く
  • Les voisinages de Van Gogh (1985)— ヴァン・ゴッホのあたり
  • Éloge d’une soupçonnée (1988)— 疑われる女への讃辞

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  1. ただし、1934 年の時点で既にシュルレアリスム運動に違和感を覚えており、レジスタンス参加も 1941 年であるため、この区分は便宜的なものであると考えられる。 ↩︎

  2. ピエール・ド・ボワデッフル『今日のフランス詩人たち』、田中淳一訳、白水社、1975 年、64 頁 ↩︎

  3. ポール・ヴェーヌ『詩におけるルネ・シャール』、西永良成訳、法政大学出版、1999 年、30 頁。 ↩︎


Citation :
森田俊吾「ルネ・シャールを読む」、『フランス現代詩読書会』、フランス現代詩研究会、第7号、2014-02-10、URL:https://poetique.github.io/2014-02-10-char/