フランス現代詩研究会 2022 11 27 日(担当者:森田俊吾)
マックス・エルスカンプ(Max Elskamp, 1862-1931
略歴
マキシミリアン・エルスカンプは、 日、アントワープ
のサン=ポール通り にて、銀行員の父と音楽家の母親
との間に生まれる。裕福な家庭で育ち、 歳の頃にレオポルド大通りの
館に引っ越す。臆病で控えめな性格で、母親のスカートから離れたこと
がなかったマックス・エルスカンプは、学校では嘲笑の対象となるが、
そこで彼を守ってくれたのが後に終生の友となるアンリ・ヴァン・デ・
ヴェルデ(後にベルギーのアールヌーヴォー創始者の一人となる建築
家)であった。二人は毎週木曜日に港に行き、再開発により変わりゆく
港町を行た。より
書いことみ、ォル
やフローベールに親しんだ。特にロングフェローの『ハイアワサの歌』
に夢中になり、翻訳も行った。
 年、マックス・エルスカンプはブリュッセル大学に入学し、法律を学ぶ。在学中にジョルジュ・ク
ノップフ(詩人・翻訳家として画家である兄のフェルナン・クノップフと共にベルギーにおける象徴主義の
思想の普及に努めた)と出会い、ヴェルレーヌ、ランボー、マラルメ、コルビエール等の詩人を知る(実際
に評価をするのは  年代になってから)。この頃、マリア・ド・マティスという女性と出会い恋をする。
  日、母を失くす。 年にマリアと婚約破棄。同年 月にこれまで書いてきた自分の作品
を全て燃やす。 日に『日本の扇子 と題されたソネ詩集を発表
印刷は
 部のみで、友人など親しい人にのみ頒布した。彼の作品の多くは、出版社を通したものではなく、自ら印
刷や編集を行っていた。執筆から、レイアウト、版画等のデザインや挿絵、紙やフォントの選択、印刷まで
すべてを自分で行い、小部数で発行し、友人、知識人、ジャーナリストなど一部の人々に自ら送り届けた。
 年、ヴァン・デ・ヴェルデは、 年に行われたパリのアンデパンダン展に倣って、ベルギーでも
独立芸術家協会を設立した。エルスカンプもそこの幹事を務め、展覧会のカタログなどに多くの文章を寄稿
した。 月にマラルメを、 年にヴェルレーヌをアントワープに招く。
 年、Dominical を発表。ヴェラーレンやピカール、ーテルランクらからも高い評価を受けた。マラ
ルメは「『ドミニカル』は、私たちの中に埋もれている多くの喜びや純真さを呼び起こし、忘れていた歌を
巧みな仕方で呼び起こしてくれるもの」と手紙エルスカンプに書き送っている 年には、ポール・
ラドミローが同詩集を元にした曲を制作している)
 年、Salutations, dont d’Angéliques を発表。評価が、ンス
「ラフグの似」とされまう。後、En symbole vers l’apostolat  Six chansons de
pauvre homme pour célébrer la semaine de flandre  を発表し、 に一冊の詩集 La louange de la
vie る。に、ち、り、「ヒリ」
 )と名付けた。
  
フランス現代詩研究会 2022 11 27 日(担当者:森田俊吾)
 年、フランシス・ジャムと出会い、アントワープに招く。ジャムと同様、エルスカンプは貴族的な
世界やブルジョア的な生き方を拒否し、民衆的・庶民的な生活を好んだ。また、土地固有の文化といった民
俗学的なものにも興味を持ち続け、アジアの宗教や、美術にも関心を寄せていた。 年、精密なダイヤ
ル式温度計を発明し、特許を取得。 年に妹を、 年に父を亡くしてから、本格的に仏教の教えに傾
倒するようになる。
 年、ドイツ軍によるベルギー襲撃レオポルド大通りのエルスカンプの館も爆撃され、執事と 
間歩いて、オランダ国境へと亡命する。ドイツ軍の非道さやオランダ人の冷淡さに失望し、鬱状態になる。
 年、ヴァン・デ・ヴェルデらの尽力により、ドイツ占領下のアントワープの家に戻ることが許され
る。終後、集的にを書あげいく。の頃記憶害や、聴をするど、精に異
をきすよになる。爆撃受けアンワープのは、後復元れたが、新し建物立ちぶ近
的なカンとがた。 Chansons désabusées La chanson de
la rue Saint-Paul を出版。 年、Les sept Notre-Dame des plus beaux métiersLes délectations moroses
Chansons d’AmuresMaya を発表。 年には歩行障害となるも、Remembrances Aegri Somnia を書き
上げる。   日、長年の精神異常の末に、孤独に死去。
主要著作
Éventail japonais 
Dominical     
Salutations, dont d’Angéliques  
En symbole vers l’apostolat     
Six chansons de pauvre homme pour célébrer la semaine de Flandre    

La Louange de la vie     
Enluminures     
L’Alphabet de Notre-Dame La Vierge  
Les commentaires et l’idéographie du jeu de loto dans les Flanders, suivis d’un glossaire   
 
Sous les tentes de l’exode    
Chansons déabusées     
La Chanson de la rue Saint-Paul    
Les sept Notre-Dame des plus beaux métiers     
Les Délectations moroses     
Chansons d’amures   
Maya   
Remembrances   
Aegri Somnia   
*この他多数の未刊行詩が  版の全集に収められている。
フランス現代詩研究会 2022 11 27 日(担当者:森田俊吾)
La Chanson de la rue Saint-Paul サン=ポール通りの歌
Préface
  君の人生を
    彩る音楽がここにある、
   その夜明けは今日
  遠いところで輝いていた、
    過ぎ去った日々、
    晴れた日や雨の日、
    長きに渡る時も、
  今では色あせた。
     だがこうした日々の陰で
     居座るものがここにいる、
     すべて消し去る時が
     そう望むように、
     けれど君の中では
     時の煌めきが残されている、
     その真白さは君にとっては日曜日
     ただそのことを思うだけ、
     それは君の純白さだ、
     輝く陽光の下で、
      日々、そしてかつて
    君だった人が、今ここに。
I 第一の歌
    サン=ポール通りは君のもの
     君はそこで生まれたんだ、
    五月のある朝に
   潮が満ちる頃、
    それは君のサン=ポール通り、
フランス現代詩研究会 2022 11 27 日(担当者:森田俊吾)
    その白さはまるで極地、
     潮風は一年を通じて
    泊まっている。
   海が、君が手にするもの
     すべては過去にある、
    夏も冬も
    キリスト教と異教徒がいる、
      私たちが見る
     空の果てには河、
     黒い屋根の上空で
    河の煙が広がっている、
     錆と糊で赤くなった
     大きな船が、
    十字型の帆桁を広げて
    迎え入れる、
    そこで飲み込む空気は
     みな海にまつわるもの、
     海と共に嗅いでいる
    燻製された魚の匂いを、
     それは君のサン=ポール通り
    君が大好きなこの街路で
     苦い流れが
     水位を上げていく、
     それは君のサン=ポール通り
     その白さはまるで極地、
      君は何年ものあいだ
    そこの住人だった。
  La Chanson de la rue Saint-Paul et autres poèmes
       
フランス現代詩研究会 2022 11 27 日(担当者:森田俊吾)
Aegri Somnia 病的夢想
IV Dimanche anglais IV. 英国の日曜日
   日曜日、
   日曜日、
       英仏海峡の青々とした海で
   颶風が
  吹き荒れて、
   英国の
ブリッグ
帆船が
    順風を受け進む
   
左舷は風上、白い帆が
   日曜日に
   英国の日曜日に。
    黄金 澄んだ太陽
    そして汚れなきもの
       沿岸部が空に立ち上っていくのが見え、
     緑がかった水の上で
    大地と言う、
    断崖は、遥か彼方に
   藍鼠色で
        幕を閉じる、まるでそれは
    夜更けまで飲んだワインの後で
     見る夢のよう、
    白い雲の群れが
    凹んでいくとき、
      天使たちが酔っているようだ
 
海辺の町の
    灯台のあたりで。
  La Chanson de la rue Saint-Paul et autres poèmes
       
フランス現代詩研究会 2022 11 27 日(担当者:森田俊吾)
Les Limbes 辺獄
Maya マーヤ
      ああ、マーヤ、私が愛するのはあなた
      仏陀が言ったことにも関わらず、
    人生において至高の幻想であるあなたを
       あなたの中で私は知った
       私の夢、夢想の中で
       真なるあなたに偽りはない
     彼があなたのことを嘘つきと咎めたので
     あなたは彼によって呪われた。
     ああ、マーヤよ、人間の
     些細な出来事から来る種は、
      人が甲斐なく願うものを
        確かな存在に作り上げる、
       それは私たちに神性を与える
        緑や石と呼ばれている
       大地の事物においてさえも
      来たるべき時に与えてくれる、
        マーヤ、あなたこそが
        考え、夢見る人の教えであり、
        知っているのだ、儚い生において
         真なるものは、死、十字架だけであると、
        そして見つけることのできる善が
      それ自体は幻想に過ぎないけれども、
      手で触れ、目にすることで
        それが真理であると知っているのだ、
      もしも息吹が私たちの中に入ってきたら、
       それがまるで神のものであるかのように
      すべてを包み込んで
       静謐な平和をもたらしてくれる。
フランス現代詩研究会 2022 11 27 日(担当者:森田俊吾)
      ああ、マーヤ、その時君は祝福されよ、
        私たちの心によって、私たちの魂によって
        我ら男性、女性によって、
      まるで光が輝くようにして、
        私たちの中にある疑念を殺すあなた
     私たちに恵みとなる平穏を与える
        甘い日々のすべての愛を込めた
     そして苦味は抜けていく。
  Œuvres complètes     
       
         
    
参考文献
        Dix-Neuf  
   

           Les Lettres Romanes  
  
 
      Textyles. Revue des lettres belges de langue française
 


   
         Le Monde   
        Les Nouvelles littéraires   
  Œuvres complètes   
  Max Elskamp          
  
      Max Elskamp et Jean de Bosschère. Correspondance (1910-1923)
    
          Revue d’Histoire littéraire
de la France  
   
 L’Evolution de la pensee religieuse de Max Elskamp   
    
              
   Textyles. Revue des lettres belges de langue française
  

   
            Bulletin de l’Académie Royale de
Langue et de Littérature Françaises 
   
            Textyles. Revue des lettres belges de langue
française


   